辞書はお金で買える実力?
翻訳者を取り巻く辞書環境に変化が起こっているようです。ついこの間まで、翻訳者は EPWING 形式の辞書をしこたま買い込み、DDwin や Jamming で串刺し検索するという使い方が主流でした。
しかしここへ来て、辞書出版社の EPWING 離れが始まっているようです。すでに研究社は、これまで EPWING 形式で出していた一部の辞書を販売停止にしたり、今後リリース予定の辞書についても、EPWING 形式でのリリースを予定していないようです。
私自身も DDWin を愛用していますので、残念な傾向ではありますが、スマホやタブレット PC の登場や、Windows XP、7、8 が混在している現在のパソコンプラットフォーム事情も考えると、致し方ないという気もします。そもそも、DDWin 自体、開発はとうの昔に終了していますし、Jamming もまた然りです。
その一方で、別の大きな動きも起きています。辞書のオンライン化です。その代表例が英辞郎と Weblio でしょう。特にここ数年の Weblio の充実化はすさまじく、英和辞典だけでなく、国語辞典やら類語辞典やら、各種用語集やら、とにかくありとあらゆる辞書をボタン 1 つで検索できるようになっており、しかも無料です。「英和実験動物学用語集」とか、「英和病理所見用語集」など、マニアック過ぎて出版社には絶対に出せそうにない辞書も気前よく提供されています。私も 2000 語収録の自前辞書「英日サッカー表現辞典」を提供しようかと思案しています。
辞書マーケットにおける最大顧客である英語学習者の間では、携帯型の IC 辞書が依然として主流のようです。EPWING 形式辞書を EPWING ビューワというスタイルは翻訳者に特有のものであり、収益性は乏しかったはずです。もちろん、インターネット経由で調べるよりも、ローカルドライブやホームサーバーにインストールされた辞書の方がずっと速く引けますし、いわゆる大御所的な辞書はネット上に公開されていないので、依然として EPWING 辞書の存在価値は残っていますが、今後 EPWING 離れは加速していき、Web に移行してくように思います。
一昔前まで、「辞書はお金で買える実力」などと言われていましたが、Weblio がこれほどまでに充実してしまった今では、「辞書はお金がなくても買える実力」、あるいは「誰でも手に入るようになって、実力でも何でもないもの」になってしまった感があります。最近の翻訳者は、もしかしたら、自分のパソコンに辞書なんて入っていなくて、すべてネットで用語の検索や確認を行っているのではないのではないでしょうか。
そんな最近の辞書事情を踏まえ、LingoPRO には、Weblio や英辞郎を Word から直接検索できるマクロプログラムを、プリインストールしてある MS-WORD 2010 に組み込んであります。Word上で調べたい語句を選択し、クイックアクセスツールバーのボタンを押す (またはショートカットキーをクリックする) だけで、自動的に Chrome が立ち上がり、Weblio が開いて、検索フィールドにその語句がペーストされ、自動的に検索ボタンが押され、検索結果が表示されるという優れものです。しかも、マクロを実行した時点でその語句は自動的にクリップボードに入りますので、複数のサイトで調べたり、Trados のコンコーダンス検索を実行したりするのに非常に便利です。