21. 表現とスタイルに関する他の問題 - 企業関係、出版物、アンケート、通信文
会社の手紙における「…について、当社の意見を述べさせていただきます。」という一文を英訳するなら、
「I’d like to tell you our opinion about …」よりも、
「I would like to convey to you our views on …」とした方がはるかに適切でしょう。
何よりもまず、英会話と、企業間の通信文などにおいて英語圏で伝統的に使用されている改まった表現との間にあるれっきとしたスタイルの違いを翻訳者は明確に理解しておく必要があります。
同様に、「…と推察しております。」も、「We guess that …」ではなく、「We assume that …」の方がはるかに好ましい表現です。
同様に、「いただきたく思います。」も、「We’d appreciate it.」ではなく、「We would much appreciate it.」や「We would be much appreciative if …」です。
「Zの法令に基づいて説明していただきたく存じます。」であれば、
「We would like you to explain to us.」ではなく、
「We would accordingly welcome your guidance, on the basis of Z Law.」
となります。最初の訳文も、文法的には完璧なのですが、法律家同士のかしこまった通信文という状況では、親しみが根底にあっても、会話調は不適切です。
「日本でのゼロからのブランド構築は、多大なコストを掛けた挙句、何の効果もない可能性もあると言われてきました。」
という一文に対する優れた翻訳は、
「It has also been said that building a brand name in Japan from scratch takes considerable amounts of (「lots of」ではありません) money, but entails a risk that in the end it may have no effect whatsoever.」
です。これは、日常会話で受け入れられるスタイルと、正式な文書やパンフレットで求められるやや改まったスタイルとを翻訳者が区別する必要性を極めて端的に示した例です。
通常の翻訳でも、スタイルと調子に対する配慮が求められることは少なくありません。例えば、「お客様をお通しします。」という一節であれば、「show」よりも、「conduct a customer to」の方が、日本語の「お通しする」という表現が明確に表す品格と尊厳が伝わります。
ビジネスの世界では、英訳においても適切なトーンを選択することが大切です。優れた翻訳者であれば、この点を常に心得ていることでしょうし、何よりも、陳腐な日本語表現の直訳やありきたりな翻訳を避け、その日本語表現が持つ特別な意味合いにふさわしい上質な英語を生み出す努力を惜しまないでしょう。
「当社HP」は、「our website」よりも「the Company website」の方がはるかに自然で、企業パンフレットに品格が加わります。例えば、
「当社HPでの社外公表内容と公表時期について検討する。」
という一文であれば、
「(The members) consider the details to be released to the public through our website and decide when they should be released.」よりも、
「(The members of the Certification Council) should prepare details of what needs to be released to the public through the Company website and also reach a decision as to when these details should be released.」
の方がはるかに自然な翻訳です。さらに、「社外公表内容」や「公表時期」といった日本語表現を安易に直訳するのではなく、英語では、それらが実際に意味するところをシンプルな語句で詳述する必要があります。
「他社が追いつけないように高度にしていくこと(深掘り)」
に対して適切な翻訳は、
「perform to such a high level that competitors are simply not able to catch up with us」
でしょう。日本ではこのような行為を「深掘り」と呼ぶことがあります。この一文は、日本以外の国ではあまり知られていないであろう「深掘り」という日本語の表現について相当の説明が必要であることを示す好例です。