日本語には、短い文の中で同じ語を2回繰り返すという慣習があり、それが原因で直訳が大きな問題を起こしてしまうことがあります。わかりやすい例が、「Xを改善する改善方法」です。英語で「an improvement method for improving …」という表現は許容されず、この日本語の意味を英語で表すなら、「a method of improving …」で十分です。

「水を供給する水供給通路」も同様の例で、一部の翻訳者に、「a water supply passage for supplying water」と訳す傾向が見られます。「a water supply passage」および「a passage for supplying water」なら、どちらもきちんとした英語ですが、冗長な日本語を直訳した英語は不自然です。

同様に、「Xにおける印刷ヘッドを検査する印刷ヘッド検査方法」も、「an inspection method of print heads that inspects print heads in X」と訳す必要は全くなく、「a method of inspecting print heads in X」が適訳です。

同語反復という問題は、特許請求項で最も頻繁に見られ、「AおよびBを溶接する溶接工程」が「a welding step of welding A and B」のように直訳されるケースが目立ちます。特許出願明細書など非常に限られたケースで、後続の請求項で「a welding step」のような簡素な表現で参照するために、「a welding step of welding …」のような語句を敢えて使うことが場合によっては必要ですが、大半の翻訳で、「a step of welding」の方がはるかに適切で自然な翻訳です。

同様に、「位置させる位置決め工程」も、「a positioning step of positioning」ではなく、「a step of positioning」とシンプルに訳すのが良いでしょう。

一般に、ミスが起こりやすいはこの部分です。漢字文化を理由に、日本人技術者は、同じ語の繰り返しによって自身の成果を強調する傾向が非常に強いようです。そして、多くの日本人翻訳者にも、このような文書を、日本人以外のライターが書いた同様の文書を読まずに直訳してしまう傾向が見られます。対照的に、東京にある日本の弁理士事務所では、非常に優秀な米国人特許弁護士までもが、無用な英語の反復表現を削除する作業に時間を浪費しており、結果的に、多くの日本人翻訳者が書いた翻訳文を書き直す羽目に陥っています。

「Zに対する対策方法」という日本語の翻訳では、全く異なるタイプの同語反復が起こります。この表現に対して考えられる翻訳は、「Countermeasures in relation to Z」、「Countermeasures in respect of Z」、「Measures to counteract Z」、そして「Measures to cope with Z」です。「Countermeasures against Z」は極力避けた方が良いでしょう。「against」と「counter」は同じ意味であり、同語反復だからです。

「イジェクトピンを押し出すことによって成形体を取り出すことができる」の翻訳には、また別の単純な同語反復を見出すことができます。この一文は、

The molded body is pushed by the eject pins to be taken out therefrom

よりも、

The molded body can be pushed out with the ejection pin.

と訳すか、能動態を使って

It is possible to push out the molded body by means of the ejection pin.」

と訳した方が、自然で簡潔な翻訳と言えるでしょう。

「安定感を実感する」も、「感」という漢字が同じ文の中で2度自然に使われているわかりやすい例ですが、これを「feel a feeling of stability」と訳すよりも「experiencing a sense of stability」と表現した方が好ましいでしょう。英語で「feel a feeling」と言うことはなく、「have a feeling」または「share a feeling」と言います。もう1つのポイントは、「感」が瞬間的な感覚ではなく一定期間にわたって持続する感覚である場合には、「feeling」よりも「sense」の方が適切であることが多いということです。