「おかげさまで」を英訳する場合には、特にスタンダードな言い回しがあるわけではなく、あくまでもそのフレーズが使われる状況に依存します。具体例を1つ挙げてみましょう。ある企業の会長のスピーチにおける段落の冒頭であれば、「Thanks to the efforts of all concerned.」が妥当です。

 

「Zに記載された拒絶理由の撤回については、貴殿の努力のおかげと感謝しています。」を英訳するのであれば、

Thanks to your efforts, the rejection set forth in Z was withdrawn, which we appreciate.

よりも、

We do very much appreciate your efforts in securing the retraction of the rejection that was contained in Z.

の方が正確で自然です。

 

「格別のお引き立てに預かり、厚くお礼申し上げます。」はどうでしょう。この種の「決まり文句」には多くの翻訳者が非常に苦労していますが、

We much appreciate your long-term patronage.

とすれば大丈夫でしょう。

 

「本日はお忙しい中、当セミナーにご参加いただきまして誠にありがとうございます。」は、

Thank you for taking time out of your busy schedule to participate in this seminar

のような教科書的な表現よりも、

Thank you for sparing the time to attend this seminar.

の方がはるかに適切で簡潔かつ効果的でしょう。相手がVIPであれば、

Thank you for sparing your precious time to attend this seminar.

となります。

 

「多大なご協力をいただきましたYおよびZの皆様に対しまして、深くお礼申し上げます。」は、

In closing, I would like to express our deep gratitude to Y and Z for their cooperation in making this seminar possible.

のような訳が一般的ですが、企業同士の会合のような場では、

Finally, our big thanks to Y and Z for all they have done to make this seminar possible.

くらいの方がカジュアルな感じで妥当性も高いでしょう。

 

販促イベントへの来場者に対する告知の中で、主催者が感謝の念と注意事項を述べた後に付け加える「それではどうぞごゆっくりお楽しみください」という締めくくりの一節でしたら、

We do very much hope that visitors to the events will enjoy their visit to the full.

くらいに訳すのが適当です。

 

手紙の中で使われる「何卒よろしくお願いいたします。」というくだりは、

by any means my best regards in the future

などとするよりも、

Please bear in mind that we will all appreciate your continuing cooperation.

の方が良いでしょう。

 

同じく手紙の中で使われる「突然の便りをお許し下さい。」という一文であれば、

We do hope that you will excuse us for approaching you out of the blue.

とすると、ややくだけた感じではありますが、良い翻訳です。

 

やはり手紙の中で使われる「今後ともよろしくお願いいたします。」は、

With my best regards in the future.

よりも、

With my best regards, and grateful thanks for any assistance you are able to provide.」

くらいの方が妥当です。

次もまた手紙の一節ですが、「色々とお手伝いできますので、是非ともご検討いただいたく、お返事をお待ちしております。」については、

We are ready to give you a hand at any moment. Please study the material enclosed and get back to us with your comments.

などとするより、

We are of course in a position to assist in any way you consider desirable, and we would be most grateful if you would first give consideration to the materials enclosed and then provide us with the benefit of your views.

と表現するのが適切です。

 

「ご意見をお聞かせください。」これも手紙の場合ですが、

I would be most grateful to have your views on the matter.

くらいが良いでしょう。

 

「平素は弊社製品をご愛玩賜り、厚くお礼申し上げます。」も、同じく手紙の中であれば、

We appreciate your usual use of our products.

よりも、

We very much appreciate your continuing patronage in respect of our products.

の方が好ましく、より自然です。最初の訳文に使用されている「usual」は誤用であり、書き手の意図とは反対の印象、つまり「特別感の無さ」を相手に与えてしまいかねません。

 

高速バスを利用した時に耳にする「本日はご乗車ありがとうございます。」に対する訳文としては、

Thank you very much for traveling with us (or with Z-company) today.

が良いでしょう。

 

「基本的に、スタッフ全員でお出迎えし、接客中のスタッフも「いらっしゃいませ」という言葉は伝えます。」という文であれば、

Basically, all members of staff should greet the customer, and staff who have guests should say “Hello”,

ではなく、

In principle, all members of the staff should greet the customer, and staff who receive guests should also say (or ‘utter the greeting’) “Welcome”,

とするのが妥当でしょう。「Hello」は、与える印象がカジュアル過ぎます。

 

次に、会話の中で見受けられる「そういう企業体ですから、しょうがないです。」というフレーズを考えてみましょう。これを

That is the kind of company we are, and you will simply have to like it or lump it.

とするのは、悪くない訳です。「to like it or lump it」は多少くだけた感じですが、Oxford Dictionaryにも載っており、このケースでは会長の意図が観衆に正確に伝わります。「しょうがない」を訳すのは至難の業ですが、優れた翻訳者であれば、辞書から「it can’t be helped」で抜き出して終わりにするのではなく、文書やスピーチの全体的な文脈に合った翻訳を捻り出してほしいものです。

 

最後に、「8月末日を以て任期の3年を迎え、山本隆が帰国することになりました。」を訳してみましょう。

Takashi Yamamoto will be completing his three-year assignment at the end of August, and it has been decided that he should now return to Japan.

くらいが良さそうです。