私がC社の通訳・翻訳者育成機関で初めて授業を持たせてもらったのは 2003年でした。私は20代前半の頃、同様の機関に2年ほど通っていたのですが、その頃から、
「熱心で意欲的な大人を相手に、こういうレベルで教えることができたら楽しいよなぁ。いつか自分もやってみたいな」と思っており、通訳・翻訳講座で教えることは、いつか実現したい目標の1つでした。
翻訳者として独立して3年ほどが経過した頃、仕事が軌道に乗って少しばかり自信もついてきた私は、やや時期尚早という気はしたものの、いくつかの機関に問い合わせと売り込みを行いました。その結果、その中の1つだったC 社が面接をしてくださり、模擬授業を経て合格。私は、産業翻訳プロフェッショナル養成科の講師として採用されました。
当時の産業翻訳科はまだ歴史が浅く、授業内容も手探りでしたが、私は授業で受講生と接しているうちに、
「こんな内容を教えたら広く実務に応用できるのではないか」
「このパターンを使えば分野を問わず訳せるのではないか」
と徐々に感じるようになってきました。
長年にわたって塾の講師をしており、テキストを書くことに慣れていた私は、そのぼんやりとしたアイデアを少しずつ文字に書き起こして授業の中に採り入れていきました。
1年後、私の書いたテキストは、教務全般を統括していたKさんに評価され、産業翻訳科の正式なテキストとして採用。以後、同講座のテキスト作成は私の仕事になりました。
その後、受け持つ講座が変わりましたが、初めての授業から10年以上にわたり、私はテキストを書き続けてきました。そして、授業の中で受講生と対話し、数多くの訳文に目を通していくうちに、次々と新しいテーマが生まれ、その度に加筆や修正、書き起こしを繰り返してきた結果、取り扱うテーマもボリュームも増え、充実した内容になってきました。2008年から2015年まで担当していた愛知大学オープンカレッジ・ビジネス英語翻訳講座は、名古屋という小さな市場で、翻訳講座としては多い15名という定員にもかかわらず、常に満席で、申し込み受付開始から3日で締め切りということもありました。そして、大学主催の教養講座でありながら、受講生の中から、新聞社主催の翻訳コンテストで最優秀賞を獲得した人や、社内翻訳者としてメーカーや特許事務所に入社した人、翻訳者として独立した人を輩出しました。
私は翻訳者として年数相応の経験と実績はありますが、決して有名というわけではなく、一流との評価も残念ながら聞いたことがありません。講師の名前に集客力がないこの講座が最後まで人気講座でいられた理由として、主催者の集客力の高さや校舎の立地の良さがあったことは紛れも無い事実ですが、継続受講生が多かったという事実を考慮すれば、僭越ながら、コンテンツが良かったという評価をある程度はできると考えています。
「求めていた知識が体系的にまとめられていました。」
「実務に広く応用できるパターンが凝縮されていました。」
「テキストが良いので受講しています。」
これらはすべて、受講生が自主的に私に寄せて下さった生の声です。
しかし、このテキストの恩恵を最も享受したのは私自身かもしれません。私自身がJTFほんやく検定1級に3回、しかもすべて異なる科目で合格したという事実と、10年以上にわたって翻訳講座のテキストを書き続けたこととの間には、密接な相関があるように思います。実務を通じて蓄積してきた暗黙知を言語化して形式知へと昇華させたことにより、自身のノウハウがすっきりと整理され、「何となく」ではなく、確信を持って翻訳実務に応用できるようになったからです。
愛知大学オープンカレッジ・ビジネス英語翻訳講座は、諸事情により2015年の8月を以って終了しましたが、その後1年半にわたって自社でセミナーを開催し、受講生の協力を得て作成したのが、こちらの商品です。このセミナーがきっかけとなり、某大手外資系機械メーカーの社内向け翻訳者研修を担当させていただく機会にも恵まれました。
翻訳業界の各種媒体にプロフィールを掲載している翻訳者の中には、「翻訳学校講師」の肩書を謳っている人もいますが、自らが書き上げたテキストを使って延べ400名近くの受講生と対峙し、時に1対1で話し合い、何千通という訳文に自ら向き合い、1000通以上の訳文に自ら添削を施し、半年ごとにテキストを加筆・訂正し続けてきた翻訳者は、少なくとも東海地区では私以外に見当たらず、おそらく全国でも有数と思われます。シンプルな内容・構成ですが、数々の加筆、削除、改訂、推敲を経てようやくたどり着いたテキストです。
現在は実施しておりませんが、テキストを改訂した場合などに、撮影のためのライブセミナーを不定期で開催しております。トップページに開催スケジュールを掲載していますので、名古屋市内・近郊の方はそちらの受講も併せてご検討ください。
当テキストの内容の一部は、拙著「和訳と英訳の両面から学ぶテクニカルライティング」にも収録されています。
教材の概要および購入
教材は解説編(穴埋め・記述式)と練習問題の2部構成で、学習者用の白テキストと、解答例が書き込まれた指導用テキスト、そして解説映像がセットになっています。さらには練習問題の添削も価格に含まれていますので、内容が理解できるまで何度でも映像を見直し、その内容に則って練習問題を訳してみてください。添削を受ければ、さらに理解が深まるでしょう。
ご購入いただいたテキストと映像のダウンロードリンクは、決済完了の翌営業日までに電子メールにてお知らせします。
映像は概ね60分から75分で、1 GB 前後のまたは AVI ファイルです。1 GB/s という当社の光回線環境では2分30秒ほどでダウンロードできましたが、低速回線やWi-Fi環境ですとダウンロードに時間がかかりますことをご了承ください。ダウンロードができない場合には、プラス1100円にてフラッシュメモリに入れてお送りします。こちらからご請求ください。
テーマ | 分類 | 学習用&指導用テキスト(添削込み) |
1. 主語の変換(1) | 翻訳技法 | 4000円(税別) |
原文の主語と訳文の主語は、いつも同じとは限りません。本稿では主に、和訳時に原文の目的語から主語を立て、英訳時に原文の主語を目的語として使うパターンを学習します。 | ||
2. 主語の変換(2) | 翻訳技法 | 4000円(税別) |
主語の変換(1)の続編です。和訳時に原文の動詞を主語に立てる、あるいは英訳時に原文の主語を敢えて動詞化するなど、(1)よりももう少しバリエーション豊かな変換パターンを学習します。 | ||
3. 説明訳と概念訳 | 翻訳技法 | 4000円(税別) |
「やってみる」と「試行する」はどちらも同じ意味ですが、響きやニュアンスが異なります。本稿では、説明訳と概念訳という2種類の文体を紹介するとともに、それぞれの効果的な使い方を学習します。 | ||
4. 品詞の変換 | 翻訳技法 | 4000円(税別) |
名詞が主体の英語を動詞が主体の日本語に移し替えるには、必要に応じて原文の品詞を変える必要があります。本稿では、典型的な変換パターンを学習します。 | ||
5. 結束性の高め方 | 翻訳技法 | 4000円(税別) |
読みやすい文章は、隣り合う文どうしが自然に結びついており、この状態を「結束性が高い」といいます。原文が持つこの自然な流れを翻訳時に損ねないようにするために気をつけるべき点と、英文和訳時に結束性を高める具体的な技法を学習します。 | ||
6. 訳出の順序 | 翻訳技法 | 4000円(税別) |
学校で習った訳出方法だと、後ろから前に戻りながら訳すことが少なくありません。本稿では、訳出時の情報提示順序を、文法とは少し異なる観点も交えて紹介するとともに、効果的な訳出方法を学習します。 | ||
7. 原因・理由を表す表現 | 表現 | 4000円(税別) |
ネイティブのライターは、cause や because 以外にどんな表現を使って因果関係を表しているか。さまざまな表現を認識するとともに、そのニュアンスの違いや用法を身に付けて訳文の洗練度を高めます。 | ||
8. 「使用」に関する表現 | 表現 | 4000円(税別) |
ネイティブのライターは、use 以外にどんな表現を使って「使用」という概念を表しているか。さまざまな表現を認識するとともに、そのニュアンスの違いや用法を身に付けて訳文の洗練度を高めます。 | ||
9. 追加・並列表現 | 表現 | 4000円(税別) |
ネイティブのライターは、and 以外にどんな表現を使って情報を追加・並列しているか。さまざまな表現を認識するとともに、そのニュアンスの違いや用法を身に付けて訳文の洗練度を高めます。 | ||
10. 前後関係を表す表現 | 表現 | 4000円(税別) |
ネイティブのライターは、before と after 以外にどんな表現を使って前後関係を表しているか。さまざまな表現を認識するとともに、そのニュアンスの違いや用法を身に付けて訳文の洗練度を高めます。 | ||
11. 例示表現 | 表現 | 4000円(税別) |
ネイティブのライターは、for example 以外にどんな表現を使って具体例を提示しているか。さまざまな表現を認識するとともに、そのニュアンスの違いや用法を身に付けて訳文の洗練度を高めます。 | ||
12. 目的を表す表現 | 表現 | 4000円(税別) |
to不定詞の処理のしかたや、to不定詞以外を使って「目的」という概念を表す方法、さらには、意外に難しい「to不定詞」と「for + 動名詞」の使い分けについても解説しています。 | ||
13. 変化を表す表現 | 表現 | 4000円(税別) |
increase の反対は decrease だけでしょうか。vary や alter は一切使わず、change だけで変化を表すのが、プロとして正しい姿勢でしょうか。本章では、変化を表すさまざまな表現とその訳し方を学習します。 |
||
14. 助詞「は」と「が」の用法 | 修辞技法 | 4000円(税別) |
普段何気なく使っている「は」と「が」ですが、その用法を正しく認識しておかないと、いざ翻訳となったときに正しい使い分けができず、稚拙な訳文を作ってしまいます。そんな恥ずかしい訳文を納品しないために必要なそれぞれの用法を学習します。 | ||
15. 修飾語句の配置順序 | 修辞技法 | 4000円(税別) |
形容詞や副詞といった修飾語句を安易に原文と同じ順序で配置した場合にどのような問題が発生するかを説明した上で、読み手が誤解なくすっきりと理解できる配置順序を学習します。 | ||
16. 読点の使い方 | 修辞技法 | 4000円(税別) |
読点を一定のルールとパターンに従い、明確な意図を持って使うと、訳文が驚くほど読みやすくなります。普段何となく使っている読点を効果的に使う方法を学習します。 |
テキストのOEM提供はもちろんのこと、上記テキストを使って当社のスタッフが直接授業を行うこともできます。単発の公開講座から、15回程度の通期講座まで柔軟に対応できますので、お気軽にご相談ください。