実力がバレる!?「より」と「よって」の使い分け

みなさんこんにちは。リンゴプロ翻訳サービスの中村です。

いきなりですが、次の英文の和訳として、みなさんはどれが最も適切だと感じるでしょうか。

Replacing chip fans with porous MOFs can save the weight of laptops, smartphones and other portable electronics.

1) チップファンを多孔質MOFに換えることにより、ノートパソコンやスマートフォンなどの携帯型電子機器を軽量化することができます。

2) チップファンを多孔質MOFに換えることによって、ノートパソコンやスマートフォンなどの携帯型電子機器を軽量化することができます。

3) チップファンを多孔質MOFに換えること、ノートパソコンやスマートフォンなどの携帯型電子機器を軽量化することができます。

あなたが翻訳者でなければ、「どれでも良い」か「どうでも良い」のどちらかでしょうが、職業翻訳者としてはそうもいきません。プロの世界では、ほんのわずかな差が勝敗を分けることもありますし、そこまでシビアでなくても、小さな差が積み重なって大きな違いになるという心構えくらいは最低でも持っておきたいものです。

そんな立場で、年数だけならベテランという一翻訳者の私が上記3つの訳文に優劣を付けるなら、1)◎、2)◯、3)△です。

まず、3)はやや口語的といいますか、少しがさつな感じで、フォーマルな媒体には不適というのが私の考えです。もし私がトライアルを採点する立場で3)を見たら、残念な印象を抱くことは間違いありません。おそらく1)と2)を検討していないだろうと考えられるからです。

1)と2)は好みが分かれそうですが、この英文のように、主語が「手段」、「原因」、「理由」などを表している場合には、1)を最優先に検討し、「~によって」は次のように修飾先文節と近づけて使うのが最適というのが自身の考えです。

Laptops, smartphones and other portable electronics can be made more lightweight by replacing chip fans with porous MOFs.

ノートパソコンやスマートフォンなどの携帯型電子機器は、チップファンを多孔質MOFに交換することによって軽量化することができます。

経験豊富な翻訳者であっても、1)と2)の使い分けに関しては無頓着であるか、そこまでは気にしていない方が多いという印象ですが、似たような言葉でも用途を限定して細かく使い分けることにより、訳文全体での表記・音律の一貫性を保つと同時に、翻訳時の思考負担を減らせるというメリットがあります。

日本語で書き起こされた特許明細書を読んでいますと、1)のような文で「より」の後に読点が入っていないケースが多々見受けられますが、和訳の際、私は必ず読点を入れます。読点を省くと、次の文のように、文意が不明瞭になることがあるからです。

△ 地絡により大きな電流が流れる。

技術者がこの文を誤読することはまずありませんが、いわゆる文系の人ですと、「地絡」を場所と勘違いし、

地絡に / より大きな電流が流れる。

と解釈してしまうこともあるでしょう。一般的な文系民は、「地絡」などという言葉を知りませんし、使いません。そう考えると、「~により」は、やはり読点とセットで使うのが良さそうです。

◯ 地絡により、大きな電流が流れる。

読点を入れることにより、文節が視覚的に区切られるため、「より大きな」と誤読されるおそれがなくなり、「地絡」が場所ではなく、何らかの現象であることが明確に伝わります。読点は、単なる区切り文字でなく、読み手に対する優しさの象徴でもあるのです。

この文に関しては、「地絡により」と、その修飾先文節である「流れる」が互いに近接しているため、「によって」も有効です。

◯ 地絡によって大きな電流が流れる。

先述のとおり、「~により」と「~によって」は、少し意識するだけで簡単に使い分けられますが、ベテランであっても意外に無頓着な翻訳者が多いため、経験の浅い翻訳者にとってはメリットの大きいスキルではないかと思います。

参考までに、冒頭の英文を各種機械翻訳にかけてみます。

【Google翻訳】
チップ ファンを多孔質 MOF に置き換えること、ラップトップ、スマートフォン、その他のポータブル電子機器の重量を軽減できます。

【DeepL】
チップファンを多孔性MOFに置き換えること、ノートパソコンやスマートフォンなどの携帯電子機器の軽量化が可能になる。

【ChatGPT】
チップファンを多孔質MOFで置き換えること、ラップトップ、スマートフォン、および他の携帯電子機器の重量を軽減できます。

この文に関しては、DeepLの圧勝です。「置き換える」は微妙とも感じられますが、save the weightを「軽量化」と訳してくるところを見ると、「~することで」が「~することにより」になるのも時間の問題かもしれません。

困りましたな…

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