「by referring to …」というフレーズを使う傾向が一部の日本人翻訳者に見られますが、この傾向は、セクション393で取り上げた「on the basis of …」と同種の問題をはらんでいます。セクション393で説明した例と同様、主語が明示されていないため、一般的な文書で「by referring to …」という表現を用いるのは間違いで、「with reference to …」が適訳である場合がほとんどでしょう。日本語は、主語と動詞の関係が英語よりもはるかに曖昧であり、その曖昧性が、欠陥訳文を頻繁に生む原因の1つです。

また、「about …」で始まる文を用いる傾向も一部の翻訳者に見られますが、通常は、「…に関して」と「…については」のどちらに対する英訳としても不適切で、「with regard to …」または「with reference to …」の方がはるかに良いでしょう。

ただし、「Xに関してXは…」で始まる和文には特に注意が必要です。「with regard to …」というフレーズを使わず、単に「X …」で始める方が、英語としては自然です。この表現は、英語が同語反復を嫌うことを示す一例です。同語反復は、本質的に同じ事柄を述べるために、言葉を使い過ぎること、もっと正確に言えば、同じ言葉を何度も繰り返して使うことです。このような表現は、どのような場合であっても避けるべきであり、日英翻訳の際には特に注意が必要です。「同語反復(1)」のセクションでも、好ましくない例をいくつか取り上げています。

「Xとしては…」に相当する英語表現も同様で、「as for X …」が適切という場合もありますが、「as for」を省いて「X」を主節に据えるだけで良い場合が多いでしょう。

上記の例に対して、正式な書面であれば、「…については」に相当する英語表現は、「insofar as … are concerned」などが適切という場合もあります。

「しかし、Z指令対象物質についてはZの規制内容を適用します。」という一文を英訳するなら、

with regard to substances specified in the Z Directive we will adopt the regulations set forth in the Directive

という表現ではなく、

However, insofar as substances specified in the Z Directive are concerned, the regulations stipulated therein will be adopted.

の方がはるかに好ましいでしょう。