和製英語の一例である「ウィークリーマンション」は、「Weekly Mansion (apartments let on a weekly basis」と訳した方が良いでしょう。翻訳している文書の潜在読者は日本や日本語についての知識を持ち合わせていないと想定することが大切です。「SED」のような日本企業の場合も同様で、(Super Everyday Discount)といった具合に、それぞれの頭文字が表す内容についての説明を英訳に組み込むことが大事です。この説明がないと、日本国外の読者は、SEDの意味やその企業の事業内容をおそらく推測できないでしょう。翻訳者は、想定される読者のことを絶えず意識しておく必要があるということです。産業翻訳は種類が多く、複雑な特許出願明細書から、英語が単なる装飾でしかない販促チラシまで、多岐にわたります。そのため、多様なレベルの翻訳スキルが求められるわけですが、どのような場合でも、情報を効果的に伝えることが何よりも重要です。

同様の事例として挙げられるのが、「その対策例が、1)ノーALTに対するIFN療法」という一節です。私は、「ノーALT」の意味を把握するのに膨大な時間を費やした後、ようやく

Relevant measures include intereferon (IFN) therapy for patients that have been diagnosed as normal ALT (alkaline aminotransferase).

という訳文を導き出すことができました。この文は、筆者の言う「ノーALT」とは何かということを翻訳会社のコーディネータが受注時に顧客と話し合う必要があることを示す好例でしょう。英語としての「normal」がこのような形で短縮されることがないことに加え、ALTテストをすでに受けた患者に言及する一節であることを示す手がかりもなく、本当に極端で誤解を招く表現でした。

必ずしも日本のことに精通してはいない海外の読者に英訳を理解してもらう際に度々遭遇するもう1つの障害が、外来語を使って「言葉遊び」をする日本人気質がもたらす問題です。その典型例が、「マイブーム」という表現です。日本で流行っている表現ですが、英語とはまったく関連性がなく、海外では確実に誤解されるでしょう。日本人がこのような形で英単語を使うのはもちろん自由ですが、このような精神は、このような表現を含んだ文書が別の言語に翻訳されたときに誤解を招いてしまいます。それぞれの語が持つ実際の形態構造や、英語圏の国における実際の用法を吟味することなくこのような複合語を作ってしまう日本人が多いということが、問題の根源です。また、これらの合成語を訳さないといけない翻訳者も、このような表現の多くが和製英語であるということを認識してしていないことが多く、中には、日本国外で書かれた英語を読む習慣がない翻訳者まで存在するという問題もあります。そのような翻訳者には、このような人工的な英語表現が真の英語であると信じてしまうという罠に陥る傾向があります。

「出向者」という語の英訳からも、同様の問題が生じます。当地のとある会社が、「expatriate」という訳を主張していましたが、英語圏の国や他の欧州の国で「expatriate」といえば、理由を問わず、自身の母国以外の国に半永久的に住んでいる人のことであり、民間企業が期間を決めずに社員を一時的に他社に異動させる決定とはまったく関係がありません。少なくとも英国では、そのような人のことを「secondee」といいます。本社から一時的に異動した従業員を意味する「出向者」を「expatriate」や「loan employee」と称することはなく、「secondee」や「employee on loan」、あるいは「employee on loan from Japan」と表します。日本企業が自社内で使用する英単語について独自に決めることはもちろん自由ですが、独りよがりの手法をとることには、国際環境で誤解を生むリスクがあります。

いったんカタカナに置き換えられてしまった英語の語彙を英語に訳し戻すにあたっては、本当に何十年も苦労してきました。元の言語が何だったのかがはっきりしないことも多々ありました。このような問題の発生を防ぐために、外来語の名前が英日翻訳の過程で最初にカタカナに置き換えられたときに、元のローマ字表記を括弧に入れるという好例を良心的な翻訳会社から示してもらうことはできないものでしょうか。

上記に加え、時間の経過とともに、元の英語とは異なる用法で日本に浸透した英単語の事例も少なくありません。日本で用いられている特殊な語法が万国共通のものと勘違いしてしまっている翻訳者もいます。先ほど「ウィークリーマンション」の文脈で言及した「マンション」という語は、少なくとも英国では、日本で認識されている意味とはとはまったく異なり、具体的には、印象的な大型の戸建住宅を意味します。

「チャレンジする」も好例です。英語では「try」が適切であることが多いでしょう。

「プレゼン」のように、日本語に採用される過程で短縮された単語であっても、元の英語では短縮されないということを翻訳者は常に意識すべきです。「プレゼン」に相当する適切な英語は「presentation」です。

「ミス」も、日本人の略し好きから生まれた造語です。英語では全面的に「mistake」が使われており、「ミス」は、英語圏の国だと広く誤解される可能性が高いでしょう。

「カーメーカー」も、英語とは少し異なる用法で日本語に採り入れられた表現です。英語圏における正式な文書では一般に「automobile manufacturer」という表現が使われます。

「リフレッシュ計画」も同様で、英訳するなら「reform plan」が最良です。人材育成に関わる状況であれば、「a refresher course」でしょう。

「このトップというのは、会社のトップということもありますけれども、どんな段階でもトップはあります。課のところは課長、部のところは部長、係のところは係長です。」という一文を英訳するなら、

When I was talking earlier about the senior (or ‘top’) management, I was talking about the senior management of the company, but at every level there is something that we in Japan call “the Top”. In a Section, it is the Head of a Section, and in a Department, it is the Head of Department.

が適切です。意識すべき大事な点は、日本語においてこのような形で使用されている「トップ」が、英語だと、少なくとも正式な使われ方ではないということです。そのため、「something that we in Japan call」や「something that is described in japan as」などの句を用いるのが望ましいでしょう。

同様の例が「ワーク」です。英語において「a work」がこのような意味で使われることはなく、通常は「work piece」と訳すのが適切です。

また、「ラップ」に関しては、「plastic wrap」や「plastic wrapping」、「plastic film」と訳すのが最良です。「ホイル」は一般に「aluminum foil」と訳すのがベストです。

ディスプレイに表示される」の英訳は「indicated on a display」ではなく、「indicated on a display screen」です。

「業界をリードする革命」を英訳するなら、「a revolution that is driving the industry」が良さそうです。英語において、革命は「lead」するものではありません。

クレーム」はどうでしょうか。企業案件において、この単語を単純に「claim」と訳すのは間違いであると、すべての翻訳者が認識すべきです。日本では、この単語の特殊な意味が浸透してしまっていますが、英訳するなら、「the subject of complaint」が適切であることが多く、場合によっては、「a defect about which a complaint has been received」ということもあるでしょう。

「特にいけないのは、外に出て行ってから出るクレームです。」という一文は、翻訳文を十分に理解してもらうには拡大解釈が求められる簡潔な和文の別例です。英訳するなら、

What are particularly unpalatable are complains that result in a need to inspect items once they have left the factory.

といったところでしょう。

「複数の代理店に販売状況をヒアリングする」という一節は、

hearing to several sales agents about trends in their sales (or ‘about their sales agents on their sales trend/situation

ではなく、

以降は有料です。