日本語入力システムの新常識
日本語入力システム (IME) が和訳翻訳者にとって何よりも重要なツールであることは、ほぼ間違いありません。1 日に何千文字と打ち込むわけですから、自身の思考をストレスなく文字に変換できる日本語入力システムが不可欠です。
翻訳者の間で人気を二分する日本語 IME といえば、マイクロソフトの MS-IME とジャストシステムの ATOK でしょう。両者の住み分けははっきりしていて、初心者が MS-IME で、ベテランになるほど ATOK の割合が高まります。
理由は簡単で、最初は Windows にデフォルトで付属している MS-IME を使い、業歴が長くなって業界の情報が入ってくるようになると、多くの翻訳者が ATOK を薦めていることに気づき、乗り換えていくからです。
私も翻訳を始めた頃は MS-IME を何となく使っていましたが、途中で富士通の Japanist という IME に乗り換え、最近まで使っていました。マイナー製品ですが、2003 年の時点で他の IME に先駆けて予測変換機能を織り込んでいたからです。そして、日本語入力モードであってもスペースキーを 1 回押すだけで半角スペースを入力できるという仕様も非常に重宝していました。英日翻訳業務において、全角スペースを使うことは事実上ないからです。
しかし今、私は Japanist を使っていません。かといって MS-IME でも ATOK でもありません。ATOK は一時期試してみましたが、独特のキー設定に慣れず、何となくレスポンスも遅いような感じがして馴染みませんでした。
私は今、Google 日本語入力を使っています。翻訳者の間ではまだ普及していませんが、今後徐々に浸透していくだろうと私は予想します。
Google 日本語入力は、後発製品であるだけに、他社の製品を本当によく研究してあるという印象です。
翻訳者にとってのメリットを、以下簡単に紹介します。
■予測変換
Japanist では、過去にユーザーが入力・確定した語句しか予測変換候補に上がりませんが、Google 日本語入力は、それ以外の語句も候補に上げてくれます。特に固有名詞を入力する際の予測変換が秀逸で、例えば「あべし」と入力しただけで、「安倍晋三」や「阿部慎之助」を候補に出してくれます。「だんみつ」と入力すれば、「壇蜜」が第一候補です。データベースを構築するのに、相当な数の文書からデータを収集したことがわかります。
■半角スペース入力
デフォルト設定は、スペースキーを押すと全角スペースが入力されるようになっていますが、[Google 日本語入力のプロパティ] ダイアログで半角に設定できます。
■英数字の半角入力
特許を除き、翻訳時に英数字を全角文字で入力することはまずないので、翻訳者にとって必須の機能です。英数字を入力するたびに変換キーを押さないといけない MS-IME は使い物になりません (もしかしたら最近は変わっているかもしれませんが)。Google 日本語入力の場合、デフォルト設定では、英数字が全角文字で入力されるようになっていますが、[Google 日本語入力のプロパティ] ダイアログで半角に設定できます。
これだけでも導入するメリットがありますが、Google 日本語入力には、他社製品にはない驚きの機能があります。
■他社製品に合わせたキー設定の選択
文節を拡張・収縮するためのキー設定は、IME 製品ごとに微妙に異なりますので、MS-IME から ATOK に乗り換えたりすると、最初はかなり戸惑います。Google 日本語入力はどうなっているかというと、MS-IME、ATOK、ことえり、カスタムの 4 つから選ぶようになっています。
自分たちが IME 市場で後発であるという事実を正しく認識したこの姿勢。見習いたいですね。
■設定やユーザー辞書のクラウド同期
この機能はまだベータ版のようですが、いやはや、これには驚きました。翻訳者にとって、地道に登録してきたユーザー辞書は貴重な資産なのですが、これまでは、自宅のデスクトップと出先のノートという具合に複数の辞書を使う場合に、辞書データをエクスポート/インポートして手動で同期させる必要がありました。しかし、この機能を使えば、自分の設定や辞書データが常に同期しますので、どのパソコンでも同じ感覚で入力できるのです。
この機能は、Mac と Windows の両刀遣いの人にとっても朗報でしょう。「ことえり」の Windows 版はありませんが、Google 日本語入力は Mac・Windows 両対応だからです。さらには Linux 版もあり、OS を選びません。
Google の製品は、Gmail といい Chrome といい、「クラウド力」ないし「同期力」が本当に凄くて、一度使い始めると手放せなくなります。私はアップルが世界を変えたとはちっとも思いませんが、Google は世界を変えつつあると感じています。私はスマートフォンももちろん Android です。
このように、従来からある製品に新たな価値を付け、勝負の場を別の土俵 (自分の得意な土俵) に引き込むという戦略は、後発ベンダーにとって非常に有効であるように思います。私自身が、後発の特許翻訳者であり、後発のパソコンベンダーですので、非常に参考になるというより、私は Google のやり方をほぼパクっています。
そして最後に究極の情報を。Google 日本語入力は無料です。凄い…
LingoPRO にはもちろん Google 日本語入力をプリインストールしてあります。英数字やスペースが半角で入力されるように設定した上でお届けしています。