505. 格言と慣習表現
格言や慣習表現は、文字どおりに訳すだけでは不十分であり、特に日本国外の聞き手に合わせて訳すことが強く望まれるということを示す好例です。
日本国外の聴衆に向けたスピーチの「敵をして己を知る。」という日本語表現を英訳するなら、
In Japan we have an expression to the effect that only by knowing their enemies do persons understand themselves.
が適切です。
「攻撃は最大の防御」に相当する英語表現は、
Attack is the best form of defence.
が適切です。この日英の表現は、かなり近いものの、全く同じというわけではありません。
「労苦と使命の中にのみ人生の価値は生まれる。」という一文を英訳するなら、
Tasks within hardships and difficulties, only such aspects bring out the true value of life.
よりも、
The true value of a human life can only be judged in the midst of adversity and in the context of that person’s destiny (あるいは「mission」) in life.
の方がはるかに好ましいでしょう。
「寒さにふるえた者ほど太陽の暖かさを知る。」という一文を英訳するなら、
The more that one has shivered in the cold, the more one appreciates (「shall perceive」ではない) the warmth of the sun.
が適切です。
「人生に悩んだ者ほど生命の尊さを知る。」という一文を英訳するなら、
The more one has suffered in its passage of life, the more one shall perceive the true value of human life.
よりも、
The more that one has suffered along life’s journey, the more one appreciates the value of human life.
の方が好ましいでしょう。
「英知を磨くは何のため、君よ忘れるな。」という一文を英訳するなら、
Never forget why you are seeking to acquire more wisdom (「knowledge」ではない).
が良いでしょう。
「頭を空っぽにし、すべてを受け入れる。」という一文を英訳するなら、
Empty one’s mind, accept all things.
よりも、
Emptying one’s mind, and accepting whatever comes one’s way.
の方が適切です。
「この世で自分の仕事を知る」という一節を英訳するなら、
know one’s job in this life
よりも、
knowing one’s own mission in life
の方が適切です。
「邪気を払い出発する」という一節を英訳するなら、
rid oneself of bad feelings and depart
よりも、
ridding oneself of negative thoughts, and making a fresh start
の方がはるかに好ましいでしょう。
「出会う、チャンスをつかむ」という一節を英訳するなら、
meet, take opportunity
ではなく、
encounters and the seizing of opportunities
が適切です。
「バランスを整える」という一節を英訳するなら、
adjust one’s balance
ではなく、
discovering (あるいは「finding」) the right balance
が適切です。
「大事なことを残す」という一節を英訳するなら、
preserve the good things
ではなく、
preserving whatever is important
が適切です。
「幅広く浸透していく」という一節を英訳するなら、
broadly penetrate
ではなく、
making inroads over a broad area
が適切です。
「満足できることを探している人」に相当する英語表現は、
people who are looking for something satisfying
よりも、
people who are searching for a sense of satisfaction
の方が妥当性は上です。これらの英訳の違いは、時間軸のとらえ方ですが、意味的には大きく異なります。
「一番幸せになる近道」に相当する英語表現は、
the most joyful shortcut
ではなく、
the quickest shortcut to happiness
です。
「自然、必然に敬服」に相当する英語表現は、
admiration for nature and necessity
よりも、
a sense of awe at nature and at what is inevitable
の方が適切です。
「ありがたい教えに出会い」に相当する英語表現は、
find teachings to be grateful for
よりも、
discovering teachings for which one can be truly grateful
の方が若干好ましいでしょう。
「自分に合わせた流れをつくる」という一節を英訳するなら、
create a flow tailored to oneself
よりも、
creating a current that is tailored to one’s own needs
の方が好ましいでしょう。抽象概念を表す場合には、「current」の方が「流れ」の訳語として「flow」よりもはるかに自然です。
「マイナスを消滅させる」という一節を英訳するなら、
reduce negatives
よりも、
eliminating negative factors
の方がはるかに好適です。最初の英訳の「negatives」は、ややくだけた言い方で、スラングと言ってもいいでしょう。この一節は、名詞「factor」が非常に有効な語であることを示す好例です。
「逆らえない運命に気づく」という一節を英訳するなら、
see one’s undeniable fate
ではなく、
coming to terms with one’s inevitable destiny
が適切です。
「人生の大きな転機」に相当する英語表現は、
important life turning points
ではなく、
important turning points during the course of a lifetime
が適切です。
「逆らっても変わっていく」という一節を英訳するなら、
change something though it may be opposed
よりも、
proceeding with changes, whatever resistance one faces
の方がはるかに好ましいでしょう。この一節は、主語も目的語も無いと英訳が難しいことを示す例です。最初の英訳の一番の欠陥は、一般的見解を述べるのに、単数形の「something」や「it」を使っている点です。
「マイナスに気づき、その穴埋めをしてプラスに移行する」という一節を英訳するなら、
take away negatives to move toward positives
よりも、
recognizing and eliminating negative factors, and moving into a positive mode
の方が適切です。
「人の生きる道」に相当する英語表現は、「path of human life」です。