35. 日本語の現在時制と「になります」: 実験と指示、ならびに「should」と「is required」を使った翻訳
日本語における現在時制は用途が非常に広く、この時制が網羅する概念を英訳する方法は実に様々です。その中で最も重要な点は、これから行う実験のために満たす必要のある条件を説明している状況で翻訳者が「satisfies」や「is」を使うと、確実に誤解を招くということです。しかも実験の場合、記載内容における「should」の意味合いを翻訳者が最初に理解していないと、同じ翻訳対象文書内の他の部分でも深刻な誤解に至る可能性があります。企業の本社が海外の子会社に指示を出している文書などでも、同じことが該当するケースが少なくありません。
「B試験はA基準を満足する」を英訳する場合に使用すべき動詞は、「satisfies」ではなく「should satisfy」です。単複の判断と同じで、このレベルの誤訳は誤解を招く可能性があり、翻訳チェッカーが間違いを見つけ、正すのに非常に時間がかかることもあります。
同様に、「欧州の条件で試験を行う」という一節を英訳するのであれば、
Test is being carried out in accordance with European conditions
ではなく、
The test should be carried out in accordance with European conditions.
とすべきです。
同様に、「患者全員に対して同様の治療を3か月行う。」という文も、書き手または読み手の意図に応じて、
All patients receive the same kind of (あるいは単に「the same」) treatment for three months.
All patients will receive the same kind of (あるいは単に「the same」) treatment for three months.
All patients should receive the same kind of (あるいは単に「the same」) treatment for three months.
と、少なくとも3通りの英訳が可能です。
「条件は試験前と同様」に対する適訳は、
the condition is the same as before the test
ではなく、
the conditions should be identical to (あるいは「the same as」) those existing before the test.
です。
同様に、環境基準に対する企業の立場を明記する正式な書面への添付書類という状況であれば、
「保証書内の一項Cのうち、包装材を除きます。」に対する適訳は、
Packaging materials are exempted from items listed in Item 1C of the Warranty.
ではなく、
Packaging materials should be exempted from among items listed in Item IC of the Warranty.
です。これは、誤訳によって生じ得る潜在的な危険性と無意味を表す極端な例です。包装材が保証書の一項1Cに列記された品目から除外される場合に、その会社が何かを明言する必要は一切ありません。
ある大企業が、中東地域の代理店または流通業者を対象とするパンフレットの中で、販促キャンペーンの実施方法に関する指示と推奨事項という流れを伝えようとしていました。このパンフレットには、「販促付属品をX設計ガイドに基づいて行います。」のような表現が全体を通じて記載されており、その大半を、翻訳者は、「Promotional fittings are designed according to X Design Guide.」のように現在時制を用いて翻訳していました。
そして、非常に長いパンフレット全体を通じて、「How it should be」という見出しが付けられていたにもかかわらず、翻訳者は、
Promotional fixtures should be designed according to the X design guide.
Distributors should have unified regulations for signs.
Posters should be used correctly.
The sales promotion campaign should be appealing to customers.
Distributors should be educated to recommend genuine products to their customers.Customer information collected, managed and utilized.
といった明快な文を続けずに、何となく曖昧で中身の無い言い回しを使っていました。最も明快な語句と、はっきりと受け手に向けた言い回しを意識すれば、
Branch policy is clarified in written form and is shared with all staff members.
ではなく、
Branch policy should be set out in written form and brought to the attention of all members of staff.
となるはずです。
このような状況で最も大切なのは、クライアントの指示と、ソースクライアントによって案出された非常に巧妙かつ慎重な吟味された方法を、丁寧に訳すのはもちろんのこと、同時に正確かつ明瞭に英訳すことによって、該当する行動を求められている人が誰かということについて、パンフレットの記載内容をどこから見ても、パンフレットの最終的な受け手に一切の疑問も残さないようにするということです。曖昧な翻訳、そして流通チェーンに関与する人全員に求められていることが明確に記載されていない翻訳には、不確実性を招くリスク、ひいてはクライアントと流通業者間での深刻な認識齟齬を招くリスクさえあります。
キャンペーンの様々な段階で「should」のような語を使うこと、そして関係者全員に言及する語を一貫して使うことは、どちらも業務を遂行する上で極めて重要な面であり、その重要性を見過ごすべきではありません。この件に関しては、英語という言語が持つ基本的な側面を一次翻訳者が十分に理解しておらず、さらには翻訳をチェックした人も、でき上がった英文だけを見て、原文に目を通していなかったために、疎漏が増幅されてしまい、文全体を大幅に書き換えざるを得ませんでした。