強調すべき箇所を強調しようにも、その方法がよくわからないという翻訳者もいることでしょう。効果的に強調できるテクニックの1つとして、語順の転換があります。

「2006年度に過去最高益に匹敵する300億円を上げることができたの も、この事業部制の成果であった。」という一文を英訳するなら、語順を転換して、

It was by virtue of this business department system that in the 2006 Financial year the company registered an operating profit of \30,000 million, at the time its highest level of profit on record.

とするのが最適です。この例では、容易に語順を入れ替えて、自然な英訳を生み出すことができます。

「また自動車はCO2をまき散らす元凶です。」このシンプルな例では、「元凶」という言葉の持つ意味合いを英語で表現するのに、語順を転換するのが効果的です。したがって、

Automobiles are presently spewing their exhaust CO2 in the air.

よりも、

It is a reality (あるいは「fact」) that automobiles constantly spew their exhaust CO2 into the air.

と訳した方が適切です。

「1995年頃の超円高といった逆風を乗り越え、こういう利益を上げることができた。」この例も語順を転換するのが有効な一文です。企業が立ち向かわなければならなかった「逆風」を強調する意図があるのならば、

In the process of (あるいは「in the course of」) making such profits, the company also had to overcome obstacles created by the excessive appreciation of the yen around 1995.

と訳すのが適切です。

Overcoming obstacles created by the excessive appreciation of the yen around 1995, the company made such profits.

と逐語的に訳すことももちろん可能ですが、不自然ですし、「パンチ」に欠けます。

「当社が高速回路を持つX試験場を建設したのは2002年のことであった。」シンプルな一文ですが、語順の転換が最適な例です。

It was in 2002 that this company constructed the X-Proving Ground, a facility containing a high-speed circuit.

と訳すと良いでしょう。

比較的長い文には、語順の転換が特に有効です。好例として、「感熱紙としてはサーマルヘッドの加熱により発色層を有する発熱発色タイプのものや、加熱により穿孔される穿孔層を基材層上に積層した加熱穿孔タイプのものなど、種々のものを使用可能である。」という一文を英訳するなら、

As the heat sensitive paper, heat sensitive coloring type having a coloring layer which generates color when heated by the thermal head, heat sensitive boring type in which boring layer is overlaid on a base material layer, the boring layer being bored when heated and other types are available.

よりも、

Available for use as the heat sensitive paper are various types including a heat sensitive coloring type that has a coloring layer which generates color when heated by the thermal head, and a heat sensitive boring type in which a boring layer is overlaid on a base material layer, and in which the boring layer is then bored at a time that it is heated.

の方がはるかに適切です。最初の訳文には、文法的な間違いがいくつか見受けられますし、前置詞「as」と動詞句(述部)「are available」が離れすぎです。この例文では、まず語順を入れ替えることが、自然な英訳を作るうえで有効です。

「やはりこういう比較はいつもできなくてはならない。それで優先度と重要度と見て物事が成り立っていくことだと思っております。」という二文を英訳するなら、

Comparisons of this kind constantly have to be made. My personal angle on this (好ましさという点でやや劣るものの「my personal view」でも良い) is that matters progress smoothly only after degrees of priority and importance have once been set.

が適切です。適切な訳文に仕上げるためには、二文目の情報提示順序の転換および「only after」という表現の使用が重要です。

スピーチの一部である「だから、工程のなかで確実にできる方法を組み入れることが必要なのです。」という一文を英訳する場合、「ことが必要」という部分が強調されていることを認識したうえで、この話者の感情および同等の強調感を英語で最も自然に表現する手段として、語順を入れ替えることが重要です。翻訳案を挙げるなら、

What is therefore essential is that methods of inspection are incorporated into manufacturing processes in such a way that inspections can be conducted without fail.

でしょう。

スピーチにおける「…果たしていきたいと考えております」という一節を英訳するなら、大胆な語順の転換が効果的な場合もあります。「my intention is that we …」と訳すのが一案です。

「単に従いなさいというのは軍人であり、そういうことを言っているのではない。」という一文を英訳するなら、

I am not seeking to lay down the law, or telling you simply to obey orders; such a method would be more appropriate in the Armed Services.

が適切です。この和文の意味合いを英語で伝えるには、同格の使用と語順の転換とを組み合わせるのが有効です。

「これからは世界を視野に入れ、市場のあるところへは自ら進出していかなければ成長はない。」この文は、英訳時の語順転換が妥当であり、「unless」の使用が特に有効な例です。翻訳案を挙げるなら、

From now on there will be no growth unless we put the world in our sights, take the initiative and move into areas where markets exist.

といったところでしょう。先ほど例で過去時制wouldを使用したこととは対象的に、本例では未来時制willを使用しています。

「美術品はただ埋もれていたというのが実情です。」という一文を英訳するなら、

In reality the collection of objets d’art had to all intents and purposes remained in obscurity.

が適切です。

The truth is that the collection of objets d’art had to all intents and purposes remained in obscurity.

とすればさらに良いでしょう。

「『食』には、おいしさはもちろんのこと、健康につながる機能や安全性も強く求められる時代が訪れています。」という一文を英訳するなら、

Today, ‘food’ is strongly required to offer not only deliciousness but also functionality and safety to human health.

ではなく、

We now live in an era in which ‘food’ is not only extensively expected to provide us with delicious tastes but also widely regarded as a mean of maintaining good health and retaining a sense of security.

が適切です。

今こそ、日本市場に参入し、ブランド構築をするチャンスです。」という一文を英訳するなら、

There is a chance now to get into the Japanese market and build a brand name.

よりも、

Now is the time to move into the Japanese market, and to build a brand name.

の方がはるかに自然であり、原文と同程度の強調感を表せます。

「親は体をつくる。師は心をつくる。」に相当する英語表現は、

The body is what your parents nurture and the mind is what your teachers nurture.

のような語順転換を行うよりも、

It is the parents who nurture the body but it is a teacher that nurtures the mind.

の方がはるかに適切です。この文では、語順を転換するよりも、「it is」を2度使った方が、和文が持つ強調感が出ます。

「可動部がなく耐久性に優れ、突き出し部のない円筒形流路により低圧損を実現したZシリーズがいよいよ発売です。」という一文を英訳するなら、

The Z-series with low pressure loss realized by the cylindrical flow route without any protruding sections will be released.

よりも、

Being put onto the market is a Z-series with the merits of a low level of pressure loss that is achieved by means of a cylindrical flow route in which there are no protruding sections and which is accordingly durable.

の方がはるかに好適かつ自然です。最初の訳文は、深く考えずに「直訳」したように見えますし、主語「Z-series」と述部「will be released」とがあまりにも離れすぎています。語順を転換し、「いよいよ発売です」を英訳の冒頭に持ってくることによって、明らかにわかりやすい訳文に仕上がるでしょう。また、現在進行時制 を用いた「being put on the market」という表現は、「いよいよ」の意味合いを伝えるのに適切であり、和文と同等の時間的な曖昧さも備えています。さらに、「with the merits of」という表現も、和文の持つ肯定的な強調感を出しており、Zシリーズの利点を宣伝する文脈全体において重要働きをしています。

センサーを接液せずに測定できます。」という一文を英訳するなら、

Contact of the sensor with the fluid is not necessary for measurement.

よりも、和文に置かれている強調感を忠実に表すために、語順を入れ替えて、

Measurements can be made without the need for contact between the sensor and the fluid.

とする方がはるかに好ましいでしょう。

語順転換のシンプルな例として、「何をやるかというと」に相当する英語表現は、「what we have in mind is」が適切です。

「A剤に対する副作用が認められたが、 患者の中には痛みが軽減し、全般的な生活の質の改善が見られた者もいた 。」という一文を英訳するなら、

Adverse reactions to drug A were observed. However, pain was relieved and overall quality of life was improved in some of the patients.

よりも、

Adverse reactions to drug A were observed. However, in the cases of some of the patients, pain was relieved and overall quality of life was improved.

の方がやや優れているでしょう。この文は、和文と同じ順序で訳した方がはるかに良い例です。「however」で始まる二文目の英文は、一部の患者に限定した所見ですから、まずはその前提を提示して、A剤を投与した患者の一部について述べるということを文頭で明確にするのが最善の方策です。最初の訳文が抱える最大の問題は、「in some of the patients (患者の一部に)」が迷子になってしまうことです。「in some of the patients (患者の一部に)」は、「pain was relieved (痛みが軽減した)」と「overall quality of life was improved (全般的な生活の質が改善した)」との両方にかかっているのか、あるいは、「overall quality of life was improved (全般的な生活の質が向上した)」にだけかかっており、文全体として、「A剤を投与した患者全員について痛みが軽減し、A剤を投与した患者の一部について全般的な生活の質が向上した」という意味なのかが、厳に文法的観点から見ると曖昧なままなのです。