日本の公的機関を英語や他の言語に翻訳する際にも、特殊な問題が存在します。一部の主な中央政府機関や地方自治体の機関については、各機関が所有する施設の英訳について明確な方針を持っていますが、そうでないところも多いようです。

良心的な翻訳会社なら、政府機関の翻訳を引き受ける際に、各機関の正式な訳名が存在するかどうか、そしてそれらの翻訳がどのような位置付けにあるかをまずクライアントに確認することが大切です。既存の英名がすでに名札に記載されていたり、公共交通機関がすでにその名称を使用して来訪者をその施設へと案内していたりすれば、改めて翻訳する必要はほとんどありません。翻訳会社は既存の訳名をそのまま使えば良く、他に翻訳が必要な場合もその翻訳を基にすれば良いでしょう。それに対し、既存の訳名が正式なものでない場合には、その訳名の位置付けがどのようになっているか、そしてその訳名を改めることを検討する必要があるかどうかを当の自治体に確認することが大切です。

ここで基本となるのは翻訳時の一貫性ですが、10人の翻訳者がいれば、それぞれ独自の利点を持つ10通りの英訳ができてしまう可能性があります。そのような状況では、例えばある公園を英語で「Yamashita-Koen」と表記するのか、「Yamashita Park」と表記するのか、「蒲郡市」なら「Gamagorii-shi」とするのか「Gamagori」とするのか、あるいは「the City of Gamagori」か「Gamagori City」かという根本的な疑問に対して明確な方針を打ち出すことが重要です。

「名古屋市近郊には、世界に誇れる地場産業が数多くあります。」は、

「A lot of local industries that are internationally worth boasting about are located around the outskirts of Nagoya City.」

よりも、

「Many local industries with a high international reputation are located in the suburbs of Nagoya.」

の方が適切かつ自然な翻訳です。英語の場合、特に正式な刊行物でなければ、「City」は省くのが良いでしょう。世界的にも、市町村名に接尾辞を付けることは稀で、英語圏の人にとっては「Nagoya」の方がはるかに自然です。

さらにわかりやすい例を紹介しておきましょう。それば病院の「看護部長」の英訳を提案するというシンプルな依頼でした。そのお客様は、「Nursing Services Department Director」が正しいかどうかと尋ねて来ました。それに対し、当時私が勤務していた会社は、「Director of Nursing」、「Director of Nursing Services」、「Director of the Department of Nursing」、あるいは「Director of the Department of Nursing Services」を候補として提案しました。しかし根本的な点として、このような場合に翻訳会社は、そもそも理想的な翻訳を提示する立場にありません。もしかしたら、「manager」の方が「director」よりも好ましいかもしれません。適切な訳語は、その病院の他部署で使用されている用語、例えば他の部署の長が「Director」と称されているかどうかに基づく必要があります。

この1件は、お客様との意義ある対話が不可欠であり、その病院の方針と慣例を他部署も含めて把握しておかないと、提案する際に大きな過ちを犯してしまうということを示す1つの例です。場当たり的な依頼に対して即興的に翻訳を提示することは、さまざまな危険をはらんでいます。

良心的な会社や特許事務所なら、「装置」などの単語を「device」にするか「apparatus」にするか、翻訳会社に指示することでしょう。このような対応ができるということが、プロ意識と国際感覚があるということであり、公共施設などを翻訳する際、翻訳会社はすべてのクライアントに同様の姿勢を促すことが等しく重要です。国際化の時代にあって、このような問題に対する日本の状況は、全体的に方向性に欠けているようです。どんな文書であっても、表現の一貫性は不可欠です。