翻訳者が頻繁に直面する問題の1つが、その文書の読者が備えていると想定される背景情報の度合いについて説明を受けることなく訳すよう求められるということです。そのために、推測作業に追われてしまうことがあります。このような状況が生じるのを防ぎ、潜在読者の想定知識レベルに合った翻訳を翻訳者が確実に生み出せるよう、関係者全員が努力すべきです。

 

日本メーカーの国際活動に関する具体的な表現をいくつか挙げてみましょう。

 

「拠点」。この単語が、日本国外に設立された製造地を表す場合、考えられる訳語は、

a manufacturing operation base established outside Japan

an overseas manufacturing base

そして

an overseas manufacturing stronghold

です。「overseas」を使用する場合には、他国の外ではなく、あくまでも「日本国外」という意味で使用されているということが文脈から明確でなければなりません。日本企業の中には、「overseas group company」という表現を好んで使用するところもありますが、そのような場合には、決して曖昧にならないように、そして「外国のグループによって所有されている日本国内の企業」といった真逆の解釈をされないように、対象となる文書全体を通して細心の注意を払う必要があります。

 

参考までに紹介しておきますと、「販売拠点」は、概ね「sales stronghold」または「oversea sales outlet」と訳されます。

 

事業部単位で」については、

implement throughout various Business Divisions within the Company

と訳すのがおそらく最良です。冗長で不器用にも見える翻訳ですが、日本企業の内情に必ずしも通じてはいない読者のために、正確な背景を「きちんと説明する」することが大切です。「in Business Division units」のような曖昧な翻訳では、日本のことをよく知らない人に広く理解してもらえないでしょう。

 

状況を問わず、「secondee」、「loan employee」、「expatriate」などの表現を使用する場合には細心の注意が必要です。日本企業が日本的な見地からこれらの表現を妥当と考えている場合であっても、その日本企業によって現地採用された社員の目には全く不適切ということもあり得ます。この例は、翻訳中の文書の「相手」が誰かということを翻訳者が理解することが重要である理由をよく表しています。