502. 特許分野の専門用語
「特許法第37条」は、「Patent Law Section 37」ではなく、「Article 37 of the Japanese Patent Act」が正式な訳語です。
「引用文献1には粉末の層が金属であるか不明である点および圧縮形成しているか不明な点を除き、本願請求の範囲1に係る発明の特定事項をすべて満たす発明が記載されている。」という一文を英訳するなら、
Cited Reference 1 describes the invention that satisfies all the specified matters of the invention recited in claim 1 of the present application, except that it is unclear whether or not the powder layer is made of metal and it is unclear whether or not the powder layer is compacted.
ではなく、
Cited Reference 1 describes an invention that conforms to all the specific elements of the invention recited in claim 1 of the present application, except insofar that it is unclear whether or not the powder layer is made of metal and except insofar that it is unclear whether or not the powder layer is compacted.
の方が好ましいでしょう。
「AおよびB」と「AとB」はどちらも、肯定文では「both A and B」と訳すのが普通です。
「AまたはB」に相当する英語表現は、正式な文書の肯定文では、「one of A and B」が普通です。特許分野でなく日常的な場面では、「A or B」が普通です。
「AやB」および「AとかB」に相当する英語表現は、特許出願書などの正式文書においては、「A, B and the like」 が普通です。
「AおよびB」と「AとB」は、共に否定文では、「neither A nor B」と訳すのが普通です。
否定文における「AまたはBは…」は、「one of A and B is not …」と訳すのが普通です。
「AやBやCは…」および「AとかBとかCは…」は、否定文では、
neither A, neither B nor C is …
と訳すのが普通です。
「および/または」という日本語表現は、「and/or」と訳すのが普通ですが、『句読法: コンマの重要性と日本式スラッシュの不適切性』で詳しく述べたとおり、英語では日本語に比べてスラッシュをあまり使いません。この例は極めて稀なケースと言えます。
「CにはAまたはBが記載されていない」という一節を英訳するなら、
either A or B is not disclosed in C
が最適です。
「CにはAおよび/またはBが記載されていない」という一節を英訳するなら、
at least one of A and B is not disclosed in C
が最適です。
「出願する」に相当する英語表現として適切なのは「make a patent application」です。
「出願を審査する」に相当する英語表現として適切なのは「examine a patent application」です。
「図面」は、「drawing」と訳すのが適切です。
「断面図」は「cross-section drawing」です。
「構成」は「configuration」が良いでしょう。
「実施形態」および「実施例」は、「embodiment」と訳すのが適切です。
「発明の詳細な説明にはコントローラはZ位置を制御する実施例しか記載されておらず」という一節を英訳するなら、
the Detailed Description of the Invention only describes the embodiment in which a controller controls the Z-position
よりも、
the Detailed Description of the Invention contains only a description of an embodiment in which a controller controls the Z-position
の方が適切です。
「なお、クレームや明細書の記載方法については貴殿に一任しますので、審査官の要求に応えることができるように修正をお願いします。」という一文を英訳するなら、
We would like to rely on you in the specific way of description an recitation in the amendment to the claim and specification. Please make amendment to meet the request of the Examiner.
ではなく、
We are content to leave to your discretion the precise description and recitation to be used in the amendments to the claim and in the specification. Please amend in whatever way you consider best so as to meet the points made by the Examiner.
が適切です。
「明細書」は、「specification」と訳すのが適切です。特許の分野で「明細書」といえば、「特許請求の範囲」および「図面」を除く、特許出願書の本体とみなされています。
「算出式」は、「calculation expression」ではなく「formula」と訳すのが適切です。
「既知の発明」、「従来技術」および「先行技術」に相当する英語表現はすべて「prior art」です。
「当業者」は、特許の分野では、「those skilled in the art」と訳すのが一般的です。
「当業者の通常の創作力の発揮により適宜成し得たことと認められる」という一節を英訳するなら、
… regarded as being appropriately achievable by any persons skilled in the art by virtue of displaying their normal creative ability
が適切です。
「当業者が容易に想到し得るものである」という一節を英訳するなら、
a matter (あるいは「something」) that those skilled in the art could easily have devised
が良いでしょう。
「…は公知の技術である」に相当する英語表現として適切なのは、
… is the public known technique
ではなく
… is a well known technique
です。
「拒絶通知」に相当する英語表現は、米国では「Office Action」です。
日本の特許庁によって発行される「拒絶理由通知書」は、「Notice of Reasons for Rejection」と訳せます。複数形「Reasons」を用いることが重要です。
「所定の」に相当する英語表現は、「pre-determined」が適切です。特許出願書では「to a pre-determined amount」という表現がよく使われます。
「新規性」に相当する英語表現としては、「novelty」または「inventive step」が適切です。「請求項1に係る発明は新規な発明特定事項を有していない。」という一文を英訳するなら、
The invention recited in claim 1 does not have a novel matter specifying the invention.
ではなく、
The invention recited in claim 1 is not characterized by any of the features of novelty that characterize an invention.
が適切です。
「進歩性」に相当する英語表現としては、「obviousness」が適切です。
「…を特徴とする」に相当する英語表現としては、「characterized by …」が通例です。
「異議申し立て」は、「protest」または「challenge」と訳すのが適切です。
「引用文献」は、「cited reference」と訳すのが通例です。
「補正書」は、大文字で始める「Amendment」が適切です。
「意見書」も、大文字で始める「Argument」が適切です。
「特許権」は「Patent rights」です。
「実用新案権」は「Utility model rights」です。
「意匠権」は「Design rights」です。
「商標権」は「Trade mark rights」です。
「著作権」は「Copyright」です。
「発明の統一性の要件」は、「the requirement for unity of invention」と訳すのが適切です。
「開示する」は、「disclose」と訳すのが適切です。
「処理はS31に進む」という一節を英訳するなら、「process goes to」という表現を使うよりも、
the procedure proceeds to step 31
または
the process moves on to step 31
の方が好ましいでしょう。当然のことながら、この種の表現は特許出願書でよく使われます。
「then」という英単語は、特許出願書に記載される請求項で使うことは厳に避けるべきです。「then」の用法については、セクション461「つなぎことば: 『そして』他」でも取り上げています。
「発明の主要部」に相当する英語表現は、「main parts」という表現を使うのではなく、「the main features of the invention」または「the main elements of the invention」が適切です。その理由を理解するには、まず、発明の構成要素は何かということをきちんと検討する必要があります。発明は多くの「part」で構成されているとも考えられますが、英語では基本的に多くの「element」で構成されているとみなされているからです。
「本発明は…A装置を提供することを目的とする」という一節を英訳するなら、
the present invention intends to provide an A apparatus that …
よりも、
the present invention sets out to provide an A apparatus that …
の方が妥当性は上です。英単語「intend」は本来、生き物だけにしか使用できません。
「発明の特定事項をすべて満たす」という一節を英訳するなら、
satisfy all the specified matters of the invention
ではなく、
conform to all the specific elements of the invention
が適切です。
「請求項1に係る発明と他の請求項に係る発明は特許法第37条第1号、第2号に規定する関係を有すると認められない。」という一文を英訳するなら、
The invention recited in claim 1 and the inventions recited in other claims are not recognized as having the relationship specified in Section 37 (1) (2) in the Japanese Patent Law.
よりも、
The invention recited in claim 1 and the inventions recited in other claims can not be regarded as having the kind of relationship specified in Article 37(1) and (2) of the Japanese Patent Act.
の方が妥当性は上です。
「上記商標について権利者であるX社では、商品もしくは役務の名称として使用している状況は認められない。」という一文を英訳するなら、
The circumstances where the above-described trademarks are used as names of goods or services by a trademark holder, X-company, cannot be recognized.
よりも、
The circumstances in which the trademarks described above are being used as names of goods or services by a trademark right holder, X-company, cannot be regarded as legitimate.
の方が適切です。
「この点に格別のものは認められない」という一節を英訳するなら、
no speciality is recognized in this point
ではなく、
no special characteristic can be considered to exist in respect of this point
が適切です。
「その他の構成についても、引用文献1、2、3、4から、当業者にとって格別な点は見いだせない。」という一文を英訳するなら、
With regard to other compositions, no matters that are special to those skilled in the art are found in Cited Documents 1, 2, 3, and 4.
ではなく、
In the light of Cited References 1, 2, 3 and 4, no aspects of the remaining configurations have been discovered that could in any way be regarded as special by those skilled in the art.
が適切です。
「請求項(11、12)に係る発明については、現時点では、拒絶の理由を発見しない。拒絶の理由が新たに発見された場合には拒絶の理由が通知される。」という一文を英訳するなら、
As to the inventions recited in claims 11, 12, no reason for rejection is found at this point in time. When a new reason for rejection is found, another notice of reasons for rejection will be issued.
よりも、
At the present point in time no grounds have been discovered for rejection of the inventions recited in claims 11 and 12. If and when any grounds for rejection of these claims are discovered in the future, a further Notice of Reasons for Rejection will be issued.
の方が適切です。
「請求項35には加熱器が焼結炉に備えられているか、プレスに備えられているのか、システムのどこに備えられているか不明である。また、請求項36、37も同様である。」の一文目の英訳としては、
In claim 35 it is unclear whether the heater is provided in a sintering furnace or in a press, and thus it is unclear at which location in the system the heater is provided.
が適切で、二文目は、
The same thing can be applied to claims 36 and 37.
ではなく、
The same argument can be applied to claims 36 and 37.
The same point can be made in respect of claims 36 and 37.
または
The same point is valid in respect of claims 36 and 37.
と訳すのが適切です。
「審査官は単にそれらの組み合わせが容易であると認定したに過ぎない。」という一文を英訳するなら、
The Examiner approved that the combination above was simply easy.
ではなく、
The Examiner has merely acknowledged that the combination described above was easy.
が適切です。この例文における「認定した」は「approved」でなく、「acknowledged」または「deemed」と訳した方がはるかに適切でしょう。「approve」は「申し分ないと公式に認める」という意味で、申請や手続きの公式な認可がほぼ決定している場合に限って使用されるのが通例であり、職員が細かい点について単に見解を示すような場合には使用されません。
加えて、「simply easy」という表現も重大な欠陥と言えます。副詞「単に」は、動詞「認定した」を修飾しているため、英文では、「merely」を「acknowledged」のすぐ近くに置かなければなりません。
「したがって、請求項1-4に係る発明は、引用文献1-3および上記周知事項に基づき当業者が容易に想到し得たことである。」という一文を英訳するなら、
Accordingly, the inventions according to Claims 1 to 4 could have been easily thought out by those skilled in the art based on Cited Documents 1 to 3 and the well known matter above.
よりも、
Accordingly, the inventions according to Claims 1 to 4 could easily have been devised by those skilled in the art on the basis of Cited Documents 1 to 3 and on the basis of the widely known fact mentioned above.
の方がはるかに好ましいでしょう。
「尚、上記の補正などの示唆は法律的効果を生じさせるものではなく、拒絶理由を解消するための一案である。」という一文を英訳するなら、
The suggestion on amendments and the like described above does not constitute the legal effect, and is merely offered as one of possible ways of overcoming the reasons for rejection.
ではなく、
Suggestions on matters such as amendments that have been made above should not be regarded as having any binding legal effect, and but are offered merely as one of the possible ways of overcoming the reasons for rejection that have been set out above.
が適切です。この文において押さえるべき基本事項の1つは「suggestions」の使い方で、「suggestions are described」ではなく「suggestions are made」です。もう1点は「法律的な効果を生じさせる」という表現で、「have binding legal effect」と訳すのが通例です。
「補正後の請求項2-10」に相当する英語表現は、
claims 2-10 after the amendment have been performed
ではなく、
claims 2 to 10, as amended
が適切かつ自然です。