17. 句読法: コンマの重要性と日本式スラッシュの不適切性

産官学融合センターの概要」の英訳としては、

Outline of the Center for the Promotion of Collaboration between Industry, Government and Academia

が適切で、これを

Collaborative Center for Academy/Industry/Government

と表記するのは文法的に間違いです。日本語とは異なり、英語でスラッシュをこのように使うことは通常ありません。

「スペイン語/日本語通訳の場合」の英訳としては、

For interpreting services between Japanese and Spanish

が適切です。英語ではスラッシュを使う必要がありませんが、これだと何となく不自然ということであれば、

For Japanese-Spanish interpreting services

でも良いでしょう。

「第1引用例には、第1電磁クラッチ5、第2電磁クラッチ7を有する操舵装置が記載されている。」の英訳は、

In Cited Document 1, a steering gear having a first electromagnetic clutch 5, a second electromagnetic clutch 7 is described.

ではなく、

In Cited Document 1, a steering gear having a first electromagnetic clutch 5 and a second electromagnetic clutch 7 is described.

です。

英語におけるコンマの使い方は日本語とは異なり、2つの名詞を連結する場合には「and」を使用します。

ですから、「シリーズ4口径の中で2口径(形式A、B)について先行発売します。」という一文も、

Among four aperture types in the series, two aperture types (Model A, B) are initially sold.

ではなく、

Among the four aperture types in the series, two aperture types (Models A and B) are being sold initially.

と訳すべきです。2つ以上のモデルに言及している場合、翻訳者は複数形を用いるなどの基本事項はもちろんのこと、英訳の表記はあくまでも英語の句読法に従うという点にも注意が大切です。

世界で一番うまく組み合わさる方法を考えようということです。」という一文を英訳するとしたら、

I am now telling you all to give thought to the best possible methods of assembling our products, in global terms.

とするのが妥当です。「in global terms」の前のコンマは特に重要で、これは、企業の方針を思い切って変更し、世界規模で考える必要があることを強調するためのテクニックです。

同様に、「決めるまでは徹底的に議論します。」なら、

I am prepared to discuss every matter thoroughly, until such time as a decision is taken.

と訳すのが妥当でしょう。英文中にコンマを入れたのは、決断が下された後は話者がその件について議論する意思がないことを示唆する極めて有効な方法であり、日本語の「決めるまでは」と上手く対応しています。

「拡大するグローバル市場へ自ら進出する」という一節なら、

to move, on the company’s own initiative, into global markets that were expanding

と訳すのが適切です。この例では、コンマを使用したことにより、世の中の潮流に従って仕方なくということではなく、その会社が自らの意思で行動を起こすことを決意したという点が強調されています。コンマを省略することもできますが、使った方が「自ら」という意味を伝えるのに効果的であり、かつ自然です。

句読法: コンマの重要性と日本式スラッシュの不適切性(2)

コンマの価値を示す好例をもう1つ挙げておきましょう。

「その狙いは、コンパクトな管理スパンの中で、それぞれの事業部に利益責任を持たせることにより、機動的で自律ある事業運営を進めることにあった。」

この一文の訳例は、

The aim of the system was to impose on each business department the responsibility for making a profit, within a compact management span, and thus to realize a business organizational structure that had maneuverability, and that was also self-reliant.

です。この例では、コンマが日英で同じように使用されています。これらのコンマは、各事業部で限られた期間内に適切な措置を確実に実施するということに対する経営陣の決意を強調する上で非常に重要な役割を果たしています。

一応策定している」は、「they are developed」ではなく、「they are being developed, to a degree」です。ここでもやはり、コンマが重要です。

大小合わせて100社以上を数えた自動車メーカーは、やがて大手数社に集約された。」の英訳としては、

A total of over a hundred automobile manufacturers, big and small alike, were, slowly but surely, being brought under the control of a limited number of major companies.

くらいが適切でしょう。この訳例に使用されている2組のコンマは、主節に対して従属的でありながらも重要度の高い2点の情報を目立たせる働きをしています。

「Zは、多くの種目に対応できる全国でもハイクラスの体育館です。」という一文なら、

Z is, even by national standards, a high-quality gymnasium, in which it is possible to hold a wide range of events.

となります。ここでは、「全国水準で」という情報が強調されており、英語ではコンマを使用することによってその強調を表すことができます。

競技にレジャーにと、一年中幅広く楽しめる室内温水プールです」という一節なら、

indoor heated swimming baths that can be enjoyed throughout the year, both for competitive swimming and for leisure purposes

くらいに訳すのが妥当でしょう。ここでは、この施設が対応している2つの主用途を強調することが重要ですので、「for competitions and leisure」のようなフレーズでひとまとめにしない方が良いでしょう。このような状況で語句を不当にまとめてしまう日本人翻訳者が一部に見られますが、和文の中で読点によって表した強調の意図が失われてしまいます。

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